2022年4月1日、富山市ガラス美術館長に就任いたしました。
1992年4月から2020年3月までの28年間は、東京のサントリー美術館に勤務し、ガラスにまつわる展覧会の企画・実施に奔走して参りました。その間培ったノウハウや、国内外の美術館とのネットワークをもって、2020年3月末に富山市に移住し、渋谷良治前館長の下、副館長に着任して丸2年が経ちますが、ガラスをこよなく愛する一個人として、かねてからガラス美術館の大ファンのひとりでもあります。
富山市はこれまで30年以上にわたり、「ガラスの街とやま」として人材の育成、産業化の推進、芸術振興を施策の柱に据え、富山ガラス造形研究所、富山ガラス工房、そしてガラス美術館の本格的な3つの施設を拠点に、ガラスをめぐる取り組みを進める世界でも有数の街です。2015年の開館当初からガラス美術館で開催した企画展は30本を数え、来館者数は110万人(2021年度末現在)を超えました。
ここ2年、来館された方々からいただいた感想の中でも、一番目に耳にしたのは、「まるでガラスじゃない!」という一言です。ガラスは透明、ガラスは壊れやすい、ガラスは吹いて作るもの…、そんな誰もが思い浮かべるイメージを、いい意味で裏切っているのが、グラスアートの現状です。ガラスという素材に真摯に向き合い、さまざまな角度からから受容し、アプローチを工夫することで表現の多様化が生み出され、この素材の持つ可能性は、なお一層引き出されています。近年は現代アートの文脈で制作される作品も少なくありません。それはまさにグローバル化の中で、「ダイバーシティ」がキーワードとなった現代の人間社会の様相と、非常に良く似ているように思います。
富山市ガラス美術館では、こうした世界の多様化するグラスアートをご紹介し、多くの方々に楽しんでいただけるよう、スタッフ一同努めてまいります。一人ひとりが異なり魅力的であるように、一つ一つ違った、表現豊かなガラスの中から、ひとつでもお気に入りを見つけていただければ幸いです。こうした活動を通して、私たちの街を、国内外へのガラスの発信地にしていきたいと願っています。
「ガラスと言えば富山」を目指して!どうぞご期待ください。
【館長経歴】
1967年東京都出身。
1992年慶応義塾大学大学院文学研究科哲学専攻美学美術史分野修了。
1992年からサントリー美術館勤務。
2010~2020年3月まで同館学芸副部長。
2020年4月より富山市ガラス美術館副館長。2022年4月より現職。
エミール・ガレや薩摩切子など、ガラスにまつわる展覧会企画多数。
2009年「ガレとジャポニスム」展(2008年開催)の功績により、財団法人西洋美術振興財団賞「学術賞」ならびに「第30回ジャポニスム学会賞」受賞。
著作に『ジャパノロジー・コレクション 切子』 株式会社KADOKAWA、中山公男監修『世界ガラス工芸史』 美術出版社(共著)、山根郁信編『KAWADEムック 決定版
エミール・ガレのガラス』 河出書房新社(共著)など。
ICOM GLASS会長、日本ガラス工芸学会理事。